アセットドリブンって言うほど特徴的なのだろうか?
こんにちは、原板井まさまるです。今回はちょっとしたお話を。
前回の記事を書いている中で見た記事や反応の中で、ポケットペアが「アセットドリブン」という開発手法を使用していることがネタにされていました。開発工程を短縮するため、アセットと呼ばれるゲーム素材があるならばそれらを流用してしまえというものです。パルワールドでいえばパルはポケットペアが考案し実装する (といってもその容姿はかなりポケモンに近いのですが) ものの、それ以外の例えば建物や草木などのモデリングは行わず、既に存在している (というか有料素材集として販売されている) 『アセット』を買ってきて済ますということです。
コンシューマハードのインディーズゲームや、Steamの二束三文ゲーを知っている方にとってはアセットと言われても「有料素材集ね」で終わるわけですが、そうでない方もいらっしゃると思うので、ゲーム制作ではなく料理に例えましょう。
皆様が肉野菜炒めを作りたいとします。そしたら当然野菜と肉を切り、油・醤油をフライパンに入れて炒めるわけですが、「野菜と肉を切ると切るための時間と包丁・俎板を洗う時間がもったいない」と思う人もいるわけです。じゃあどうするか? ――そう、野菜はカット野菜を使用し、肉は最初からバラ肉を買ってきてパックから直接フライパンに投入すればいいんですね。バラ肉はバラ肉故に高くありませんし、カット野菜も見切り品とかは割と安いので、洗い物をフライパンと食器だけにしたいと思えば十分ありです。
これと同じように、有料素材集を買ってきて、その素材をいい感じに配置すれば、それっぽいフィールドもダンジョンも作れます。ゲームの面白さに木々やら岩々やらのグラフィックが関係するかどうかはゲーム次第なので、必要ないと割り切れればそれもありですよね。
……逆に言えば、「アセットドリブン」という行為自体はインディーズゲームではもはや当たり前、逆にしていない会社が少ないというものでもあります。あえて「効率を重視してます」アピールをしなくても、出来合いのものを買ったほうが金も時間も節約できることはわかるし、それはゲーム自体の面白さを必ずしも左右しませんので、糾弾する人も正直あまり見ません。
HUB GAMESの『ファイナルソード』とかはアセットそのまま感が強すぎてネタにされましたが、StudioMDHRの『Cuphead』みたいに『自宅を抵当に入れてまで全部を自前でなんとかする』というのもすべての会社が真似すべきとも思えません。ゲーム制作もあくまでビジネスです。大手ではないインディーズゲームはアイディア一発勝負で商機を産み出していくのがひとつの戦略ではないでしょうか。
アセットドリブンという言葉がアセットドリブンだった件
さて、そんなアセットドリブンという単語ですが、この単語自体がマーケティング用語として使用されているものでした。
ポケットペアの溝部拓郎社長の手法がクリエイターというよりはマーケターという感じを強く受けていましたので、マーケティング用語を流用するのも不思議ではありません。アセットドリブンとは、新規事業を創出するにあたっての4つのアイデアのうちのひとつであることがわかります。
- マーケットドリブン:市場で何が求められているか顧客にヒアリングして事業を創出すること
- アセットドリブン:自社の技術・資産やノウハウを活かして事業を創出すること
- ビジョンドリブン:将来実現したいこと・目標から逆算して事業を創出すること
- コンペティタードリブン:競合が提供するサービスの課題から事業を創出すること
もっとも、ポケットペアのいう「アセット」とは「自社の資産」のことではなく、有料素材集を指す「アセット」であるのですが、まあ有料素材集も買ってきてしまえば広い意味では自社の資産とも言えなくはないのでしょう。
それでも納得いかないのは私だけでしょうか。
再三再四申し上げますが、私は「Cuphead」のようなやり方がいつでも正しいとは思ってはいません。事業として営む以上は人々に提供できる自社独自の価値を磨くことも重要ですが、コストをなるべく押し下げつつ、経営を成り立たせることも必要なはずです。とりわけポケットペアは60名程度の社員を抱える企業体ですから、従業員に給与や賞与・福利厚生をきちんと提供できる必要があります。
ただしゲーム業界、それもインディーズゲームというものはビジョンドリブン的である必要がありそうです。「大手ではこういうことができない、だから自分たちは独立して本当に遊びたいゲームを作るんだ」というのがインディーズゲームをやる理由であり、ビジョンである、と少なくとも世の中では考えられています。そして同じようなゲームを遊びたいと思っていた人たちに提供するという意味合いにおいてはマーケットドリブンとも言えますし、大手ができないことにクローズアップするわけですからコンペティタードリブンでもあります。
一方で、大手にはない技術ももちろんあるでしょうが、大手でなければできないことはたくさんあるでしょう。大手であれば映像に一瞬しか出てこない完璧な陰影をつけた1セント硬貨を作ることも容易でしょうが、インディーズゲームにそれはほとんど不可能でしょう。自宅を抵当に入れれば別かもしれませんが。
そうした中でアセットに頼らざるを得ないことは多々あるでしょう。他者アイディアのパッチワークになることもあるでしょう。別にそれはいいではありませんか。ですがアセットももともとは自分以外の誰かが作ってくれたものです。他者アイディアも最初に産み出した人がいて、それをブラッシュアップしていった人々がいるのです。そこに対する敬意があってはじめてインディーズゲームは世に受け入れられるというものです。誰かから貰ったり借りてきたものを「資産」と呼んでドライなビジネス視点だけで進めようとすれば、違和感が出てくるのは否めないでしょう。
最後に
ポケットペア・溝部社長はかつて、「AIが進化し過ぎてて、どっちがポケモンかもう分からない。。。」なんてTweetをしています。
私は生成AIの進化は歓迎する立場ではあるのですが、溝部社長の発言は危ういなあと思います。AIが産み出したそれがポケモンチックなのは、もともとのポケモンのデザインルールをゲームフリークが強固に作り続けてきたからです。AIは先人たちの血と汗で築かれた「努力の結晶」に基づいています。
他者のアイディア・デザイン・素材それらを活かせば金を稼げる、みたいな安易な考え方を続ける限り、ビジョンの見えない『インディーズゲーム屋さん』に向けられる目は厳しさを増すだけなのではないでしょうか。
余談
なお、本記事ではあくまで『パルワールド』はインディーズゲームである前提で記事を書いていますが、ポケットペアはソニー・ミュージック、アニプレックスと版権管理合弁会社『パルワールドエンタテインメント』を設立していることや、パルワールドの制作には10億円というゲーム開発でもかなり上位の金額が掛かっていることなどからしてもインディーズゲームという印象からはかなり乖離しているという指摘もあります。
また、訴訟を提起した任天堂は「Indie World」という番組を行い、インディーズゲームを支援するスタンスであり、パルワールド公式のTweetに見られる『インディーゲーム開発者が自由な発想を妨げられ萎縮する』ことをむしろ嫌うサイドの企業であることにも留意すべきでありましょう。


